(4)団塊世代教員の「総括」とその研究セット

 「はしごを外される」といういいかたがありますが、定年制度はまさにこれでしょう。「後進に道をゆずる」といういいかたもあります。定年制度の「意義」はそこにあるのだとしても、制度に支えられて生きてきたサラリーマンにとって、これまでそれなりに磨き上げてきた人生の技術の大きな部分が突然無効になるわけですから、「はしごを外される」というのが当事者に気づかれにくい実態でしょう。
 ですから、定年が近くなってくると、みなさん自己防衛というか自己保存的行動に移ってきます。たとえばこれまで積極的に発言してきた人が発言の回数を減らしたり、何年か先の事柄にたいしては意見を控えたりする、という現象(あるいはこれを反転して、いやに無責任な発言をしたりする)です。これは自分から店じまいをする身振りですが、これは肯定的に評価すべきことなのでしょうか? 仕事の能力が無くなったからでも、なにかまずいことをして責任をとらされるわけでもないのに首になるわけですから、いつまでも、職場に人生を預けておくわけにいかないので、軌道修正をはかる、ごく自然な行動なのだとも言えるでしょうか。
 物の考え方や振る舞い、身なりまで教員という職業を続けてきたことによって、教員が身に付いてしまい、そこから別のありように自分を軟着陸させることが困難になってしまっているのに、いわばその「教員」機能にエネルギーを供給する仕事はもはやない。こういう状態は、熱心な教員であった人であれはあるほど危険な状態であるとわたしは考えています。
 研究会の機能というのは「教育現場」に飲み込まれがちな現場教員を、そこから一時的にでも引き離すことなのだろうと考えます。私にとっては研究会は入った時から退職時の危機管理機能をはたすものだったのかもしれません。
 大学の先生にとっては少し事情がちがうかもしれませんが、最近は現場の教員は、この研究会にはあまり多くありません。ということは、「教育現場」の教員まるのみ機能がたかまっている、とも考えられましょう。このツケは、定年後にやってくることを私は心配しています。
 なぜ、これほどに教育現場は教員を丸のみしてしまうのか、ということは教育の思想に内在した問題だろうと考えてきました。しかし、この基本的な構造をあきらかにし、別の教員像を提示できたとはいえないだろうと思っています。言えないどころか、失敗してきたのではないのか、と最近は疑っています。もちろん、現場の教員を集めることができていなかったからというより、学校という制度のとらえ方が間違っていたのかもしれない、ということもふくめて言っています。
 この研究会自身を社会学してみる必要があるように思うのです。そのためには、学校現場との距離をとるためにこの研究会を利用してきたように、私は、この研究会との距離をとることが大切になると思っています。もちろん学校現場とちがって、この研究会が強烈な包摂能力をもっているわけではありませんから、距離などはじめから適切に皆さんの中であるのだと思いますし、この距離感覚こそが、いわば研究会の生命なのだろうとは思っています。ですが、もうすこし距離をとったらどう見えてくるのか。研究会の自己観察というふうなことができないだろうか、とも考えます。言い方をかえれば、研究会の「総括」ですね。団塊世代の私たちの課題の一つは研究会の総括でしょう。
 もちろん総括は未来のために行う行為です。全共闘世代の意味あいで「総括」をいえば、それは自己の過去の行為とこれからの自己の投企がふくまれますが、そういう自己閉鎖的まじめさとは別な意味で、私にとって「定年後」を語ることは「総括」を語ることと重なってくるわけです。これから何ができるか、ということと自分はこれまで何をしてきたのかとは同じ問の表裏なのでしょう。
 これは「はしごを外される」者の、その危機を回避するための自己防衛なのだろうと考えます。退職教員におとずれる危機を研究した人はいないのでしょうか? 「おわり」の危機から現役時代の現場の姿が見えてくるのではないでしょうか。団塊世代教員の研究こそ、この研究会の若手にやって欲しい研究です。

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